シンガポールと言えば、英語も中国語も通じるということはよく知られていますが、公用語は何語なのでしょうか?
答えはタイトルにある通り、
- 英語
- 普通話(標準中国語)
- マレー語
- タミル語
の4つもあるんですね。
なぜこんな風に4つもの公用語があるのでしょうか?
シンガポールの公用語について、それぞれの言語が公用語となった理由や使われている言語の割合について解説します。
また、シンガポールがこのように4つも公用語を持つことになった地理的・歴史的背景についてもご紹介しています。
シンガポールの公用語が4つの理由
シンガポールが4つもの公用語を持っているのには、シンガポールが多民族国家であることが関係しています。
シンガポールは1965年に独立した、比較的新しい国家です。
ですが、その独立した背景がちょっと独特で、そのことが公用語が4つもあることと関係しているのです。
そこにはシンガポールの地理的、そして歴史的な背景が関係しているのですが、それについては後ほど見てみましょう。
まずは、シンガポールで公用語となっているそれぞれの言語が、なぜシンガポールで公用語とされたのか、その背景から見て行きましょう。
シンガポールは多民族国家
こちらの、シンガポールの民族の割合の図を見てください。
[引用元:シンガポール統計局]
この図を見ると、
- 中華系: 74.3%
- マレー系: 13.4%
- インド系: 9.1%
- その他: 3.2%
となっています。
7割以上が中華系で、それ以外にもマレー系、インド系、その他と様々な人種・民族が住んでいるんですね。
シンガポールの公用語は、普通話(標準中国語)、マレー語、タミル語、英語となっていますが、それぞれの言語が公用語とされた背景について、見て行きましょう。
普通話(標準中国語)がシンガポールの公用語である理由
住民の多くが中華系
シンガポールの地域はマレー半島でありながら、イギリス植民地時代に中華系移民が大量に流入したため、住民の多くが中華系となっています。
上でのグラフでも見た通り、7割以上が中華系となっています。
その点を考えると、公用語として中国語が選ばれるのも自然だと言えますね。
ですが、一つ問題がありました。
多くの方言
シンガポール在住の中華系の人々は、特に中国南方から移住した人が多かったため、実際は中国南方の方言である福建語や広東語、潮州語など、様々な方言が話されていました。
一番多く話されていたのは福建語ですが、中国語の方言は互いに通じないほどかけ離れているため、方言同士での意思疎通は困難です。
そのため、中国語の一方言ではなく、中国語の標準語(共通語)である普通話が公用語にされました。
マレー語がシンガポールの公用語である理由
マレー語の重要性
マレー半島に位置し、歴史的にさかのぼれば、もともとマレー系住民が住んでいた土地のため、シンガポールにとってやはりマレー語は重要な言語になります。
シンガポール自体は中華系住民が多いものの、地理的に見て小国であるシンガポールがやって行くには、やはりお隣のマレーシアとの協力が必要不可欠となります。
そのため、マレー語も当然のことながら公用語とされました。
マレー語は国語としての地位も
ちなみに、公用語の中ではただ一つ、マレー語のみが国語と指定されています。
公用語の場合、その国の行政をその言語で行い、公文書もその公用語で書かれ、多くの人に理解される役割を持っています。
ですが国語の場合、公用語のように利便性や機能的な要素よりも、その国に由来するも、または象徴するものとして定められるケースがあります。
シンガポールの場合、国民の多数を占める中華系の言語ではなくマレー語を国語と定めたのには、シンガポールの地理的な位置や歴史的背景からマレーシアとの関係を重視したためと言われています。
タミル語がシンガポールの公用語である理由
インド系住民
シンガポールには、中華系やマレー系の民族の他、インド系の人たちも多く住んでいます。
インド自体が多民族国家で、インドでは30もの言語が話されており、その中でも22の言語が政府によって指定言語とされています。
スケールが凄いですね。
シンガポールに住むインド系の人たちを代表する形で、シンガポールではタミル語も公用語とされました。
なぜヒンディー語ではなくタミル語なのか
ここで疑問に思うのが、なぜインド系住民を代表する言語として選ばれたのが、インドの公用語であるメジャーなヒンディー語ではなく、タミル語なのかということです。
この理由は、シンガポールに住んでいるインド系の人たちの多くは、何世代も前に南インドから移住して来た人たちだからなのです。
南インドではタミル語が主に話されており、シンガポールに移住したインド系の人たちの多くが、引き続きタミル語を話しています。
そのため、シンガポールではインド系民族の代表として、タミル語が公用語にされました。
英語がシンガポールの公用語である理由
シンガポールの公用語は、住民の中でも多い中華系、マレー系、インド系の人たちを代表して普通話(中国語)、マレー語、タミル語が公用語として定められたということを見てきました。
シンガポールの公用語は4つ、英語も公用語になっていますが、なぜ英語もシンガポールで公用語にされたのでしょうか?
国際語と多民族共存
英語は現代では国際語であり、英語ができれば世界中の国々とのやり取りがスムーズになるほか、優秀な人材も多くシンガポールに誘致することができます。
また、シンガポールは多民族国家であることから、中華系、マレー系、インド系それぞれの民族を超え、平等に互いに意思疎通ができるためにも、中国語、マレー語、タミル語以外の共通言語が必要になります。
そういった意味でも英語はシンガポールという国家を形作り、発展させて行く上で重要な言語となって行きました。
民族間の不平等さや抗争を防ぐためにも、シンガポールは独立後長い間、英語を国の第一言語として据え、その他の公用語である中国語(普通話)、マレー語、タミル語は第二言語としていました。
そのため、学校教育も英語がメインで、国民にも英語を離すことに力を注いで来ています。
教育の場で使われる英語は「正統な」英語がベースになっていますが、住民同士のラフな付き合いでは、「シングリッシュ」というシンガポール独特の英語が使われてもいます。
このシングリッシュとは、中国語の方言やマレー語の特徴が混じった独特の英語となっています。
それでは、シンガポール内での言語の割合はどのくらいなのか、見てみましょう。
シンガポールの言語の割合
シンガポール統計局による調査によると、シンガポールの家庭内でメインで使われている言語の割合に関して、こんな結果が出ています。
普通話 | 英語 | 中国語方言 | マレー語 | タミル語 | その他 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2010年 | 35.6% | 32.3% | 14.3% | 12.2% | 3.3% | 2.3% |
2015年 | 34.9% | 36.9% | 12.2% | 10.7% | 3.3% | 2.0% |
この表では、2010年と2015年の言語の割合を載せていますが、シンガポールの言語事情の変化について、興味深いことが読み取れます。
言語の割合の変化と傾向
英語が1位に
上の表で見てわかる通り、普通話(標準中国語)と英語は僅差ですが、割合としては今は英語が最も多くなっています。
2010年にはわずかに普通話(標準中国語)が35.6%で最も多く、英語が32.3%で2位でした。
それが2015年には順序が逆転し、英語が36.9%、普通話(標準中国語)が34.9%になっています。
さらに英語の場合、2000年にはわずか23%だったのですが、それが15年の間に36.9%にまで増えています。
このように英語の割合が大きく増えた理由は、シンガポールでは学校でも職場でも英語がメインのため、自然と英語を話すことが習慣になっている人が増えていることに関係しています。
両親とは英語以外の言語を話している人でも、学校や職場などの社会生活を英語メインで過ごして来た世代の人たちは、結婚すると新しい家庭では英語を使うことが多いと言われています。
そのため、今後ますます家庭内でも英語をメインに使う人口の割合が増えて行くものと思われます。
中国語の方言
中国語の方言は、2005年には18.2%だったのですが、上の表でわかる通り2000年には14.3%、そして2015年には12.2%と、段々落ちています。
これは、やはり学校教育や仕事の影響で若い世代の中国語の方言離れが進んでおり、英語や普通話(標準中国語)を話すようになっていることに関係しているようです。
マレー語
マレー語もシンガポールでは減少し続けている言語です。
2005年には13.2%だったものが、2010年には12.2%に、そして2015年には10.7%になっています。
タミル語
タミル語の場合、それほど変化はなく、だいたいいつでも3%前後を保っているようです。
複数言語の使用
これまで見てきたように、シンガポールの家庭でメインに話されている言語の割合は、英語と普通話がトップを占めていますが、シンガポールには複数の言語ができる人も多くいます。
そしてその傾向は、年々増加しています。
2010年には、1言語のみ読める人、そして2言語以上読める人の割合は、
- 1言語のみ:29.5%
- 2言語以上:70.5%
となっていました。
それが5年後の2015年には
- 1言語のみ:26.8%
- 2言語以上:73.2%
と、2言語以上読める人の割合が増えています。
シンガポールには2言語以上できる人が住民の7割以上もいるんですね。
多民族・多文化が感じられる街中
シンガポールでは、街を歩いていれば様々な人種の人々が行き交っていますし、また、地下鉄で移動しても、多民族国家であることがよく感じられます。
例えば、地下鉄6号線のチャイナタウン駅(Chinatown / 牛车水)では、プラットフォームに貼ってある広告も中華系のもので、中華系の雰囲気が漂っています。
それがたった数駅移動すると、リトルインディア駅(Little India / 小印度)があり、広告もインドの女優さんたちが使われていたりと、雰囲気がガラッと変わります。
このように、地下鉄を移動しながらも多文化・多民族が色濃く感じられます。
また、街中には中華系の寺院もあれば、ヒンドゥ―教の寺院、イスラム系のモスクなども一般公開されており、それぞれの宗教や文化を体験できる貴重な場が多く存在しています。
このように、シンガポールは多文化・多民族国家で、公用語を4つも持っているのですが、なぜこのようになったのでしょうか?
中華系が7割を占めていながらも、あえて中国語のみを公用語とすることはせず、あくまで民族間の平等と共生を第一に掲げるシンガポール。
そこには地理的な影響のほか、悲しい過去を持った歴史的背景がありました。
続いて、シンガポール国家が民族間の平等と多民族共生を何よりも大切にしている背景について、地理的・歴史的な面から簡単にご紹介します。
シンガポールの多民族共生の背景
地理的な背景
まず、現在のシンガポールと周辺諸国の地図を見てみましょう。
この地図では、左上にマレーシアがあり、そこはマレー半島になります。
そのマレー半島の南のところにシンガポールがあるのが見えますね。
そして周辺には、インドネシアやブルネイなどが見えます。
また、こちらの地図では、シンガポールの公用語の1つであるタミル語話者の出身地、南インドの位置も確認できます。
マレー半島に目を移し、拡大してみると、シンガポールがマレー半島のほんの一部分にあるのがよくわかります。
このように地図で見てもわかる通り、シンガポールはマレーシアと地理的にも歴史的にも密接な関係があります。
歴史的な背景
イギリスの植民地
マレー半島は、1800年代よりイギリスの影響を受け、植民地となっていました。
それが1957年、マレー半島の大部分を占めるマレーシアが、まずマラヤ連邦としてイギリスから独立します。
その6年後の1963年、マレーシア(マラヤ連邦)は新たにシンガポールとボルネオの2つの州と連合し、マレーシア連邦として生まれ変わります。
晴れてイギリスから独立したマレー半島でしたが、残念ながらこのマレーシア連邦は長くは続きませんでした。
民族間の抗争
マレー半島は、もともとはマレー系の住民たちが住んでいた土地でした。
そのため、マレーシアは政治や行政において、マレー系住民の優遇措置をとる政策を行っていました。
しかし、マレー半島の中でも南部のシンガポールの地域というのは、イギリス植民地時代に中国南部から移り住んでいた中華系民族が多く住んでいました。
そんな中、マレー系住民の優遇措置や互いの民族・文化の違いをめぐり、シンガポールの地域で抗争が勃発します。
マレー系住民と中華系住民の間の抗争は激しさを増し、多くの犠牲者が出る結果となってしまいました。
これにより、マレーシア政府はシンガポールを切り離すことを決定します。
不本意な形で独立
このように、シンガポールはマレーシアから切り離されることとなりました。
後にシンガポールの初代首相となるリー・クアンユーはマレーシアの決定を知ると、「自分は成人してからずっと、マレーシアとシンガポールの融合のために努力してきた」と、涙を流します。
マレーシアとシンガポールは地理的にも経済的にも密接につながっていますし、また、ともにマレー半島で暮らして来た中で、人々の親密なつながりもあります。
この時の映像は今でも公開されていますが、私はこれを見ると、当時のリー・クアンユーの様々な熱い想いや絶望感ともいえる気持ちが感じられ、胸が強く揺さぶられます。
こうして、シンガポールはマレーシアから追い出される形で独立をすることになります。
シンガポールの独立にあたって
国家理念
[晩年のリー・クアンユー / 出典:アメリカ合衆国国防総省]
初代首相となったリー・クアンユーは、シンガポールが民族間の抗争がもとでマレーシアから分離独立をせざるを得なくなった背景から、独立の際、「シンガポールは多民族国家であり、すべての民族が平等に共存できるということを世界に示そう」という旨の演説をしています。
その理念の通り、シンガポールは多民族共存をかかげ、出発します。
公用語の決定
国が新たに生まれるとなると(特に多民族が共存している国であれば)、公用語は何にするのか決めなければなりませんね。
シンガポールの場合、このような地理的・歴史的背景があって、他民族共生を国家理念とし、公用語を4つに定めたのでした。
グローバル化が進む現代において、シンガポールの多民族共生政策にはいろいろと興味深いものがあります。
ここで最後に、簡単にシンガポールの基本情報をまとめてみます。
シンガポール基本情報
国名 | シンガポール共和国(Republic of Singapore) |
首都 | シンガポール |
人口 | 約570万人(2017年) |
面積 | 約721.5 km²(2017年) |
公用語 | 英語、標準中国語(普通話)、マレー語、タミル語 |
民族構成 | 中華系74,3%、マレー系13,4%、インド系9,1%、その他3,2%(2016年) |
宗教 | 国教は定められていないものの、国内には仏教、イスラム教、ヒンドゥー教、道教など様々な宗教あり |
通貨 | 通貨 |
国旗 |
まとめ
シンガポールの公用語について、まとめてみました。
シンガポールの公用語は4つ、普通話(標準中国語)、マレー語、タミル語、英語となっており、マレー語は更に国語とされています。
公用語は一応4つですが、政府は英語の普及に力を入れて来たため、シンガポールでは学校でもビジネスの場でも英語がメインになっています。
多民族・多文化のシンガポールは魅力がいっぱいです。